純愛モラトリアム - 5/7

「お、あれ明日香じゃないか?」
 とヨハンが言うのを聞いて、俺は顔を上げてガラス窓の外を見た。
 いつものゲームセンター。やたらに画面の動きが緩慢な古いシューティングゲームをぽちぽちと動かしながら、俺はとなりに座ったヨハンに軟体生物の隠し持った恐るべきトゲトゲについて根気よく説明している最中だった。「ナメクジに歯なんてないだろー」とけたけた笑うヨハンに、なら今度ナメクジ探してバラして実際に確かめてみようぜ! なんて息巻いていると、ゲーセンの主はなんの前触れもなくふと顔を上げて言ったのだ。「お、あれ明日香じゃないか?」
 たしかにそこにいたのは明日香だった。人気の少ない店の前の通り道を、真夏に相応しい露出度の私服でゆっくりと歩いている。明日香は前に一度このゲーセンに来たことがあって、っていうか俺が連れてきたんだけど、ヨハンとはそのときお互いに知り合っていた。優等生然とした明日香は、でもああ見えてゲームとかかなり得意で、もはやこのゲームセンターのゲームというゲームすべてを知り尽くした男といっても過言ではないはずのヨハンを相手にかなり良い勝負を見せて、それ以来たまにひとりでもこの店に来ることがあるようだった。
 けど、今日は別の場所に用があるらしい。ゲームセンターのほうなど見向きもしないで通り過ぎようとしている明日香はもちろん俺たちに気付いてなくて、外へ出て声をかけようと思って立ち上がった俺は、でも明日香のとなりにもう一人見知った人間が歩いているのを見つけて動きを止める。やっぱり当然私服を着ているそいつはかなり親しげな感じで明日香とふたり並んで談笑なんかしている。
 っていうか藤原だった。
 藤原と明日香がとっても仲良さそうに歩いていた。
 なんかびっくりして店のドアの手前で固まってしまった俺の顔を覗きこみ、ヨハンはもう後ろ姿しか見えなくなってしまった明日香たちのほうを見やってから、ああ、と何故か納得したふうに頷いてみせた。「あれが藤原?」
 妙なところで察しが良い。こくこくと首肯する俺に、ヨハンは、はっはぁんと奇妙な感じににやついて、「よし、つけようぜ!」とか言いだす。
「はぁ?」
「だって気になるだろ。藤原って明日香の兄貴の、なんだ、恋人未満みたいな相手だって言ってたじゃん。それが明日香とデートしてるなんてさ、変だろ、ちょっと。気になるって」
「いやいや、デートとか言うなよ。その辺で偶然逢っただけかもしんないじゃん」
「年頃の男女が一緒に歩いてたら、どんな経緯があろうと全部デートだって決まってんだよ」
 随分な極論を口にして、ヨハンは軽い足取りでゲームセンターのガラス扉を押した。ぎぎっと重たげな音を立てて開いたドアの向こうから、息苦しい夏の空気が押し寄せてくる。太陽は今日もバカみたいにハイテンションだ。それに釣られるみたいに勢いを増してゆく蝉の合唱を全身で浴びながら、ヨハンは明日香たちを尾行すべく店を出てゆく。店の外へ。
「おい十代、はやく行こうぜ。見失っちまう」
「…………」
 信じてもらえないかもしれないが、知りあってから半年弱、俺はこのときはじめてヨハンが店の外に足を踏み出すのを見たのだった。
 いや、まぁ本気でそうだと思ってたわけじゃないけど、やっぱりヨハンはこの地に根を下ろしたきり決して外の空気に触れる事のできないゲーセン仙人っていうわけじゃなかったんだ……。これはこいつがゲーセンに住みついてるって認識もそろそろ正すべきなのかもしれない、とか、わりと真面目に夢を壊されたような気分になっている俺を放って、ヨハンはすたすたとためらいなく明日香たちを追いかけてゆく。俺も慌ててあとに続く。
「お、おいおい、ちょっと待てよ。つけるとかお前本気で言ってんの?」
「当たり前だろ」
「なんで当たり前なんだよ」
「なんでって……」
 ヨハンは自然な感じに首をかしげて、でも、面白そうだから~とか暇だから~とかそういういい加減な答えを返すんじゃなくて、むしろそんなことを問われるのこそ意外だというふうにさらっと「だって十代、これ、レビレート婚みたいなのだったらヤバイだろ」と言った。
 ヨハンはたまに妙なことを知っている。
「……なんだって?」
「知らないのか? レビレート婚だよ。日本語だと、ええと、逆縁婚? 結婚相手が死んだときにその兄弟と再婚するってパターンでさ、まぁよくある話だけど、そういうのに繋がる現場に遭遇してんだとしたら一大事じゃん。ドロヌマだよ、ドロヌマ。ほっとけないだろ?」
「……百歩譲ってお前のそのサスペンス展開用の設定を採用したとして、つまりそれ、今ごろ吹雪さんはどっかで死んでるってことだよな?」
 呆れ混じりに言った俺の言葉にヨハンはぴたりと足を止めていきなり真顔になったかと思うと、「不謹慎だぞ、十代」とか言ってくる。こいつ……。
「ま、冗談はともかくとして、お前だって気になるだろ? 俺は例の藤原センパイを見物する良い機会だしさ。ちょっとくらいつけたってバレないバレない」
「バレるとかバレないとかの問題じゃなくてさぁ」
 なんていうか、あんまりこういうふうに軽い調子で関わろうとするとロクな目に合わないんだよなぁ、今までのパターンから考えて。
 そんなふうに俺が渋っている間にもヨハンは堂々と明日香たちを追いかけていく。
 明日香と藤原はなんかふつうに駅前の雑貨店とか覗いてちょっと楽しそうに笑ったりしてて、傍目から見ればまるまるカップルでけっこうお似合いだ。明日香の私服は別にはじめて見るわけじゃないけど、やっぱり学校で見る制服姿とはまたちょっと違った感じで大人っぽくて、藤原もよく見ると実は背高くて顔ちっちゃくて手足長くて、制服脱いじゃうとなんとなく大人の男の人みたいな雰囲気があって、二人の並んでる空間にはどうもなんか、テレビとか雑誌的なオシャレな感じが漂っている。ここがもっと都会の街中だったら、そりゃもうサマになっていたに違いない。
 二人はふらふらと当てもなく駅前をうろついているように見せかけて、でも実はそうでないことに俺はすぐに気付く。ヨハンと並んでこそこそとあとをつけながら、明日香と藤原が一件の店に入っていくのを見届けて、やっぱりなぁと俺は言った。
「あそこ、藤原のお気に入りのケーキ屋」
 店内にカフェも入ったその店は、見た目も内装も店員も派手な感じだけど不思議と男性客も入りやすい独特の雰囲気がある。総務管理会の冷蔵庫に保管されているケーキはだいたいこの店のもので、実を言うと俺も一度だけ藤原に連れられて来たことがあった。そのときはテニス部がなにかの大会で良い成績を収めたからそのお祝いを管理会で企画していて、だから藤原が勝手知った調子で予算にみあった色とりどりのフルーツタルトをてきぱき注文しているのを俺はへーうまそーとか言いつつ眺めてから、ふたりで箱よっつぶんのタルトを抱えて学校まで帰っただけだった。でも今日はそういう、必要だから来ただけって感じじゃなくて、藤原は明日香といっしょにガラスの向こうに並んだケーキたちを極真剣に選び抜き、ふたりで奥のカフェに入ってく。
 店の外からそのようすを覗きこむ怪しい二人組のうち一人であるヨハンが言った。「デートじゃん」
 俺も頷く。
 どっからどう見てもデートだった。
 ええー、なんで? なんで明日香と藤原? 吹雪さんは? とかって思いっきり首を傾げてる俺に向かってヨハンは「どうする? 入る?」とか言ってくるけどさすがにバレるし、っていうか金もないし、外観派手なわりにメルヘンな感じはまったくないこのケーキ屋は店員も男しかいなくて、男子高校生の二人組でもまぁ入れないことはないって感じだけど、それでもやっぱりなんかつらいものがある。俺が「ないない」って言うとヨハンもおかしげに「だよな」って返すけど「でも気になるよなー」とか続けるその声は、自分が気になるっていうよりは俺の気持ちを勝手に代弁しているような言い方だ。
「べつにそんなに気にならねーよ」
 実際めちゃくちゃ気になるけど俺は一応そう言っておいて、まだちょっと諦めきれない感じのヨハンを引きずってゲームセンターに戻ることにする。うーん、気になる……気になるけどやっぱり変に口を出してまた疲れるのもイヤだし、つまり今こそ、これまでの経験をもとにした冷静な対応が求められているに違いない。炎天下をくぐりぬけてようやく涼しいゲーセン内にまで帰って来た俺は、ヨハンとふたりでまたシューティングゲームに戻って、ピコピコと遊びながら外の熱気のことを思いだしてナメクジを探しにいくのはもう少し涼しくなってからにしようと約束するけど、たぶんこの話題はこのまま適当に流されてゆくんだろうなぁとか考えている。だいたいナメクジって秋や冬に活動してるのかどうかも俺はしらないのだ。カイザーなら知ってるんだろうか?

* * *

 そういうふうにだらだらと夏を消費して過ごすことで、明日香と藤原の気になる関係について俺はまたちょっと忘れがちになるんだけど、っていうか本人たちが目の前にいると「どういうことだよ~」って詰めよりたくなるのに、ちょっと別のことやってるとすぐに、まぁべつにどうでもいいかな~みたいな気分になってくるのはなんでなんだろう。インスタントに満たされない好奇心に興味はあまり持続しない。俺はちょっといい加減に生きすぎなんじゃないだろうかとも思うんだけど、もちろんそんなのは今が夏休みで明日香に会う機会もそんなにないせいでしかない。お盆が明けてすぐの登校日に久しぶりに明日香と顔をあわせて、すぐにあの「どういうことだよ~」って気持ちを思いだした俺は、おはよー久しぶりーってあいさつをすませてすぐに聞いてみることにする。
「なぁお前さ、藤原と付き合ってんの?」
「…………」
 すっごい睨まれた。
 そんなに怒んなくても良いんじゃないだろうかと思うくらい明日香はマジでいっぺんに不機嫌になってしまって、「それ本気で言ってるの?」とか恐い声で聞いてくるけど、もちろん俺は冗談のつもりだったのだ。うーん、明日香にとって藤原とはそこまでアリエナイ相手なのか……それなりに楽しそうだったくせに……。っていうか、そういう勘違いされたくないヤツとふたりでケーキとか食いにいくなよ。誰が見てるかわかんないんだからさぁ。
 よくわかんないけどなんか怒ってる明日香は、俺が「いやいやこないだ二人で駅前歩いてるの見たからさぁ、なんか珍しい組み合わせだしどうかしたのかなぁとか思ってさぁ」とかなぜか言いわけするみたいな感じで言うのを聞いて「ああ」とようやくちょっと表情を緩める。
「駅前にラグナロクってケーキ屋さんがあるんだけど、そこの夏の新作がすごく美味しいって聞いて、それで、藤原くんと食べに行ったの。それだけよ」
「へー……」
 その夏の新作情報は藤原くん本人からもたらされたに違いない。たまに気持ち悪いくらい甘党の藤原はこの界隈のケーキ屋を網羅していて、特に気に入った店の新作なんてへたすりゃ発売当日にひとりで買いに行っててもおかしくはないのだ。すごく美味しいのならなおさら。
 いつの間にそんなやりとりが出来るような関係になったんだろう? 俺から見る限り明日香と藤原はあんまりお互いに関わりあわないようにしているような感じで、総務管理会室にいるときも吹雪さんを間に挟んでの不思議な距離があったし、なにより夏休みに入る前、万丈目事件のときの明日香の「…………そう」は本当に恐かったのだ。
 なんか釈然としない気持ちでいる俺に、明日香はどうしたの? というふうに小首を傾げて、でもすぐに俺の気持ちを読み取ったみたいに気まずそうな顔をした。かすかに溜め息のような呼吸を漏らして、それから、「和解したのよ」と言う。
「和解?」
「そう、和解。……十代は兄さんが藤原くんに、その、昔から執心してるってことは知ってるんでしょう?」
 シューシンってなんだろ、とか思いつつ、とりあえず聞かれていることはわかるので俺は頷く。明日香はどこか出来の悪い子について語るみたいに苦々しく、でも柔らかい感じで苦笑した。
「それがね、嫌だったの。だって兄さんが藤原くんのこと好きだって言いだしたとき、私まだ中学二年生だったのよ? もう、嫌で嫌で、別の高校に進学してやろうかって本気で悩んだくらい」
「そ、それは大変だったな……」
 たしかに中学二年生の真面目で賢い女の子にとって、兄貴が同級生の男に告ってフられて告ってフられてを繰り返してるって環境はちょっとキツいように思う。明日香ってなんか、ブラコンっぽいとこあるし。さぞかしショックだったに違いない。
「だから本当、最初はね、藤原くんの名前聞くのも嫌なくらいだったんだけど、でも十代は誰とでもすぐに仲良くなっちゃうし、管理会の仕事はきっとやりがいがあって楽しいだろうし、兄さんの気持ちが変わるような気配だってないんだから、いつまでも逃げてちゃだめだって思って。夏休みに入る前に声をかけて、それで、ちょっとずつね。話するように心がけてみたの」
 良い子なのよねえ藤原くん、と苦笑交じりに言う明日香の声は、なるほど藤原を恋愛対象として見ているようではなさそうだった。「賢いし、丁寧だし。亮もときどき、どうして兄さんと仲よくしてるのかわからなくなるけど、藤原くんはとくに、なんだかああやって管理会室で三人並んでるのが不自然に感じるくらいで……」
「あー、それはなんか、わかるかも」
 藤原を見てるとたまに、こいつなんでここにいるんだろう? みたいな気持ちになることがあるのだ。存在感がないってわけじゃないけど、どうも場に馴染んでないような感じがする。カイザーと吹雪さんと藤原のいる総務管理会室はバランスも見栄えもすっごい良くて、あの三人が引退した後のことなんて想像出来ないくらいなんだけど、それでも時々、なんだか食い違っているような気がするのはどうしてだろう。俺があの三人の、一年のときから積み重ねてきた時間を知らないからだろうか。
「とにかく、だから私、藤原くんへの苦手意識と和解したの。もう兄さんが何回フられたって気にしないわ。好きにすればいいと思ってる。藤原くんとは私個人として仲良くなれたし、これは十代のおかげね」
「へ? なんで俺?」
「だって、最初に藤原くんと仲良くなったの十代じゃない。十代が管理会室に入り浸るようにならなかったら、私、たぶん自分から藤原くんに近付こうなんて思わなかったもの。管理会室なんて避けて通って、藤原くんがうちに遊びに来てもずっと無視して、おいしいケーキも食べ損ねてた」
 だから十代のおかげ、と明日香はちょっと微笑むけど、正直なにがどう俺のおかげなのかよくわからないので、俺はとりあえず適当に笑っておくだけにする。とにかく、ぎくしゃくしなくなったのなら何よりだし、友だちが増えるのは良いことに違いない。
 でも明日香はそうやってちょっと嬉しげだったのに、ふいに不安げな顔になって、けどね、と言う。
「私、兄さんと藤原くんは、ちゃんとお付き合いしたりしないほうが良いと思うのよね……」
 独り言みたいに小さく漏れたそれは、でももちろん目の前の俺に向けて告げられたもののはずで、俺は思わず間抜けみたいに「へ?」とか言っちゃうんだけど、明日香は気にしたようすなく淡々と続ける。
「藤原くんはなんとなく、危なっかしい感じするじゃない? それ、兄さんがいっしょだとちょっと加速するっていうか、歯止めが利かなくなるっていうか……。藤原くんが交際を断るのって、自分がそういうふうにダメになっちゃうの、気付いてるせいじゃないかしら」
 だからときどき、このまま逃げ切っても良いんじゃないかな、なんて、ちょっと思っちゃうのよね。
 明日香は今度こそ独りごとっぽくそう呟いた。
 俺は「そうかなー」とか適当に返事をするふりをして、でも内心、なるほどなーと思っている。あの日、藤原が管理会室でぼんやり幽霊みたいに佇んでいた春の放課後、あいつはたしかに《ダメになる》と言ったのだ。《そういうふうに決めてしまったらダメなんだ。俺、ぜったいダメになる》
 ってことは明日香の言ってることはたぶんそれなりに正しいのだろう。藤原は自分がダメになる自覚があるから、吹雪さんと付き合うとこまで踏ん切りがつかないのだ。なるほどなるほど。でもダメになるってなにが? どういうふうに? 恋愛ごとでダメになるっていうと色々と想像できるわけだけど、でも、それって自分で散々フった相手とやっちゃってる時点ですでに発揮されてんじゃないの?
 とか思って俺はまたちょっとむずむずしはじめるけど、もちろん明日香はそれには気付かないで、「もう大人なんだし、いつまでも付き合う付き合わないで揉めてる場合じゃないと思うけど」と肩をすくめて言った。
「だいたいほとんど付き合ってるようなものじゃない。夏休み、ほとんど毎日逢ってたわよあの二人」
 ああ、うん、そりゃダメだ。
 頼むから勉強しろって、受験生。

 っていっても、もちろん我が校の誇る総務管理会メンバーがお勉強を怠っているようなことはない。
 俺みたいな劣等生からじゃ想像もつかないような時間をこの三年間、もしかしたら中学生とか小学生のころからずっとずっと学ぶことに費やしてきたようなやつらが今さら恋愛に感けて成績を落とすような真似なんてするはずがない。俺の勉強しろよ~はもちろん冗談っていうかお約束みたいなものだ。夏休みのあいだ何度か決行された、海とかプールとか遊園地とかのちょっとしたお出かけに行く計画は、全部三年生を抜きにして行われた。っていうか誘っても断られた。勉強とか受験とかそういう言葉こそ出てこなかったけど、さすがにこの夏を一日中遊びに使うのはナシで、みたいな空気がそこにはたしかにあって、だから仕方ないんだろうなぁとは思いつつも俺が電話で「じゃあ来年の夏は免許取って車で海とか山とか連れてってくれよ」とか言うと、藤原はなぜかびっくりした感じに問い返す。
「え、来年?」
「うん来年。え、なに、だめ?」
「だめじゃないけど……」って言う藤原の声には「来年も俺この子と遊ぶの?」的なびっくりがあからさまに含まれていて俺も驚く。藤原のびっくりは「来年も遊んでいいの?」であって、「来年はもう遊びたくないのに?」ではない。高校卒業したらもう後輩と遊ばないもんだと思いこんでいる藤原に俺は呆れるけど、でも本人はマジなのだ。至って大マジ。そこにツッコミとか入れる余地はないので代わりに、「えー良いじゃん今年無理なら来年行こうぜ、海。楽しいって、ぜったい」と俺は力強く断言しておく。藤原はちょっと笑って「そうだね」とか言うけど、あーこれ全然信用してないなって感じで、でもそれは、たぶん仕方ない。はたして一年後、大学生になった藤原とまだまだ現役高校生の遊城十代が今よりいっそう仲良く遊んでいられるなんて、ちょっと思い難いのもたしかなのだ。「でもナメクジ見つける約束よりは確実っぽいと思うんだよなぁ」
「え、なに、ナメクジ?」
「いやいや、こっちのはなし」

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