さて、愛ってなんだろう? とか俺は柄にもなく考えたりしてみたわけだけれど、その答えがそうそう容易く出てくるもんじゃないってことは、まぁなんとなくだけどわかる。そういう感情の真相ってたぶん人生の最終局面くらいになるまで見えてこない。ような気がする。それはつまり見えなくても特に問題ないってことだ。空気みたいなもんなのだ、たぶん、愛って。最後の最後に感謝できれば良い。
夏休み中盤の暑いだけで退屈な午後十時を俺は部屋で転がってすごしながら、随分と詩的なことを思いつく。目には見えない愛はその辺にたくさんある。場合によっては色をつけることだって出来るけど、でもそういう演出抜きに、なにもせずにそのままの状態であることこそなにより純度が高くて、それこそが純愛って呼ばれるものなのだ。クリアーな世界に常に満ちる感情は、でも、藤原をどんどん重たくさせるような気がする。そこまでして純粋である必要ってたぶんない。
そういう愛だの恋だのは俺にはやっぱりよくわからなくて、考えれば考えるほど、一周まわって藤原の言い分も理解できるような気になってくる。相手を好きなら好きで充分だし、相手が自分を好きなのも嬉しいし、だったら別に今のままで良いんじゃないの? みたいな、そういう大人への階段の放棄みたいなのはガキっぽくて、たぶん見る人から見れば失笑ものなんだろうし、藤原の頭の中がそういう怠惰っぽい理屈で埋められてるとも思わないんだけど。
たとえば俺が誰かに告白されたら、それはクラスの女子とか、まぁ誰でも良いんだけど、それこそ明日香とかから付き合ってほしいと言われたらどうするだろう。いや、うーん、ないだろうけど、でも明日香のことはけっこー好きだしもし付き合うとしたら……どうだろうなぁ、たぶんそれなりに楽しいだろうし気心も知れてるし、はじめてのカノジョってたぶん俺の歴史に刻まれる一大事だろうし、ひょっとしたらそこそこ浮かれるのかもしれない。でも恋人同士になると今まで気にしてなかったこととかありえなかったイベントとかが追加されてくるわけで、それをきちんとこなしてはじめて付き合うって関係が成立するんだろう。デートとか毎日のメールとか電話とかそれからキスとか、なんかそういうの……って考えて、これ以上を明日香で想像するのは顔合わせにくくなるだけだからやめとく。代わりに俺はケータイを開いてピピッと押して藤原に電話することにした。いつもよりちょっとだけ長く感じる呼び出し音。
微かなノイズに続いてやって来る「もしもし?」はちょっと機嫌良さそうな感じで、俺が「よー久しぶりー、元気?」とか言うと「うん、それなりに」ってほんとにそれなりに元気そうに返してくる。うーむ、人の気も知らないで……。
藤原はちゃんと家にいるっぽくて、扇風機がんがん回してどうにか暑さを凌いでる俺の部屋と違ってたぶんそこは冷房入ってて涼しいんだろうなーって思うから今度家遊びに行っていい? とか思わず言いそうになるけど我慢する。それはそれで楽しそうだし、そのうちチャンス見つけて押しかけてやろうってひそかに思ってはいるんだけど、まぁ置いといて、今回の俺の目的はそこにはないのだ。俺が常になんの用事もなく電話してくると思ったら大間違いだ。
「なー、ちょっと気になったんだけどさ」
「ん?」
「藤原って吹雪さんとキスとかエッチとか出来んの?」
言ってやった。
脈絡なく言ってやった。
藤原はたぶん唐突でストレートな質問にびっくりして固まっているはずで、実際に黙り込んじゃってて、ケータイ握りしめたままで硬直してるのに違いないって感じで俺はなんとなくやり遂げた気分になる。でもちょっと緊張してる。相手は二歳も年上でクラスメイトとそういう話するのとはやっぱりまたちょっと違うし、相手名指しだし、なんか、うん、いやなんでこんなこと聞いてみたくなったのかはわかんないけど。
たぶん困らせてみたかったのだ。藤原の抱える『好き』の度合いを確かめるようなことを突然言って、前触れなく置き去りにしてみたかった。藤原が「ぜったい無理」って言うあの声を思い出して、この質問にも似たようなニュアンスで回答するんだろうかとちょっと気になったんだ。それだけ。
藤原は黙ってて、俺はちょっと後悔しはじめて、っていうか恥ずかしくなってきて、なんかこのまま勢いで思わず電源ボタン押してしまう前に謝ったほうが良いってぜったい! とか思いはじめて、ごめんごめんわけわかんないこと言っちゃってははは冗談だよごめんなー忘れて? みたいな笑い話にしてしまおうとしたんだけど藤原は俺がそう切り出す前に「え」と声を出してしまう。「あ、うん。できる、よ」
思わず素直に答えちゃいましたみたいなその声は「できると思う」じゃなくて「できるんじゃないかな」でもなくて「できたら良いのに」でも「できるはずだ」でも「できるかなぁ」でもなくて、「できる、よ」というなに当たり前のこと今さら言ってるんだろう? みたいな自然な肯定で俺はまたしても自分で地雷を踏み抜いたことに気付く。
こいつやってる。
付き合うとか付き合わないとかで悩んで暴れたりするくせに、たぶんもうやってる。
えええなんだよそれえええ、って口に出しそうになるけど堪えて、っていうか言葉とかちょっと出なくて、黙り込んだ俺にケータイのちいさいスピーカーの向こうから藤原が何度か十代くん? とか呼んでて本人は自分の失言に気付いてない。きつい。それとも俺が直感的に覚えたなんかそういうやらしい気配とかが勘違いだっただけか? って頭の中ぐるぐるしはじめてなにも言えずにいたら、藤原のほうもなんかこっちの気まずい空気とかようやく読めたみたいで黙り込む。ダメだ、めちゃくちゃ息苦しい。どうにかしないと。
でもそうやってお互いに黙っているせいでいつも物音ひとつしない藤原の部屋の奥のほうからかすかに扉を開くような閉じるような音が俺の耳にまで鮮明に届いて、それと同時に「あれ、電話中? 誰から?」って聞き覚えのある声がこっちに、ていうか藤原のほうに近付いてくるのがわかってしまう。うわ、うわ、うわ。
俺は慌てて今度こそ本当に電源ボタンを押して、通話を切って、それだけで電波はあっけなくぷつんって途切れてなにも聞こえなくなったのに、でもなんか全身がばくばくしてる。遠くから近くに寄ってくる、いま藤原のそばにいる人の声。聞き間違いじゃなければあれはたぶん吹雪さんだ。っていうか吹雪さん以外ありえない。
ええ、なんだよ……なんで吹雪さんこんな時間に藤原んとこいるんだよ……。逆か? 藤原が吹雪さん家にいるのか? そんなのどっちでも良いけど、え、なんで? 夏休みだから?
なんだよおい受験生だろ勉強しろよ、って思いながらとりあえずケータイを手放してなんとなく距離をとる。ちょっと安心する。なんかすっごい肩とかこったような気分で、口から勝手に長い溜め息が出た。あー、電話代もったいねぇー……。
ってそうじゃなくて。
こういうのって普通なのか?
キスとかひょっとしたらエッチとかしたうえでまだ付き合うのは無理とか言ってんのあいつ?
いやどう考えても付き合うよりハイレベルなことしてない? とか考えて想像しそうになってやめる。なんか恐いし、なによりわりと親しくて話しやすい友だちだと思ってる先輩のそういうの想像したくない。うわあぁでもやってんだあの二人! 吹雪さんとかあんな女子に追いかけられててそのくせバカばっかりやってて変な人だけどでも明日香の兄ちゃんだし頭いいはずだし優しそうなのに!
でもそんなの見ただけじゃわかんないし、だいたい本当に優しいだけの人って八回も九回も告白してフラれてを繰り返したりしないような気もする。藤原があの日の総務管理会室で見せたみたいにわけわかんないことになるヤツだって知りあって半年も経ってない俺だってわかってるのに、吹雪さんが気付いてないわけがない。ええ、わかんねー……つまりどういうこと? 結局あの二人はなにがしたいわけ? 吹雪さんがほしいのは藤原のちゃんとした恋人っていう肩書きなわけ? それって絶対に必要? とか思うけど、ああ、でもまぁ、そっか、必要かもしれない。必要じゃなくても欲しいかもしれないし、欲しくなくたってあったほうが良い気がする。けど、やっぱりよくわからない。
恋人にならなくたって肉体関係が成立することがあるっていうのは、ドラマとか漫画とかで見かけるから知ってる。そういうこと平気で口にするやつは、クラスの中にだってそこそこいるくらいだ。まったく理解できないってほど遠い感覚だとも思わないし、たぶんそういうのって大人になればなるほどもっと近くにやってくるんだろうと思う。じゃあなんで俺がこんなふうに動揺してるかっていうと、たぶん藤原の「好きだけど付き合うのは無理」っていうちょっと意味不明な主張が、でも、やっぱりヨハンの言うように希少で純粋なものみたいに認識してるとこが俺にも充分にあって、それが裏切られたのがショックなんだろう。そこそこ近い距離にいると思ってた相手がいきなり遠くに行ってしまったみたいな感覚に驚いていて、そんな自分があまりに子どもでそれにもびっくりしている。
っていうかなにが純愛だよヨハンのやつ、適当なこと言いやがって……。
なんとなく投げかけた他愛のないはずの質問に手痛いしっぺ返しを食らって、もうほんと、最近こんなんばっかだなぁってへこむんだけどそれはべつに再起不能ってほどのダメージではなくって、このまま変にあの二人のことに首突っ込んだままだと恋愛恐怖症とかになるんじゃないのかなぁ俺……なんて弱気になったりもするわけだけど、でもそういう気分ってあんまり長く続かない。立ち直りが早いのが俺の長所で、それでも十五分くらいはあーだこーだと頭を抱えていたんだけど、とりあえず一度復活する。思い切ってケータイを手に取る。藤原からの着信がないことに安心するのと同時になんかちょっと寂しい気持ちになったりしてると、メールが一通飛んでくる。俺は普段あんまりメールしないんだけど、たまに届く内容は本当に大事な用件かすっごくどうでもいいことかのどっちかで、今回は後者だった。《明日の数学の補習って何時からだっけ?》ってクラスメイトからの質問。
あれ、明日って数学入ってたっけ?
慌てて机の上に置いたままのファイルに入れてある各科目補習のご案内プリントを取り出して、自分の受ける予定の補習日程を確認する。数学、数学、と思いながら赤ペンでチェックされたカレンダーに目を通そうとして、あ、俺数学の補習ないんじゃん、と思い出す。そうそう、期末で赤点取らなかったのだ。
管理会室で勉強教わってなかったら、まぁ間違いなく全教科補習だったんだよなぁ。考査前はもちろんみんな自分の勉強で忙しいから全然だったけど、でももし家庭教師並みに付きっきりで教わってたらたぶん期末ほぼ満点とか取れたんじゃね? なんてちょっと考えて、いやさすがに付きっきりは勘弁だなぁと思いなおすけど、まぁとにかく明日の俺に補習の義務は課せられていないのだ。夏休みって素晴らしい。
《知らねー》と簡潔に返信して、そしたらなんか急に肩の力が抜けたような感じになって来て、俺はちょっと考えてから決意してアドレス帳を開く。カイザーに電話する。短い呼び出し音が途切れてすぐあと聞こえてきた「珍しいな、どうした?」って声はケータイ越しに聞くにはちょっと低すぎて、やたら頼もしく感じるからもう自分のやったこと洗いざらい全部喋って楽になってしまいたいような気分になる。ふしぎだー、俺なにも悪いことしてないのに。
カイザーはなんかすっごいいつも通りって感じで、俺はちょっとだけあの二人のあの部屋のなかにカイザーも一緒にいることを期待したんだけどどうやらそうでもないらしくて、自分で自分にトドメを刺したっぽい感覚にあああやっぱりかああってなりながら頭を抱える。うー。でもそういうふうに落ち込んだって仕方ないし、そもそも落ち込む意味もよくわからない。
黙ってる俺にカイザーはとくになにか促すようなことは言わなくってケータイの向こうは静かだ。静かなのは好きじゃない。藤原の無言電話の向こう側とか気まずい沈黙の奥から聞こえてくる吹雪さんの声とか思い出して俺はまたなんとなくへこんできて、黙ったままのカイザーになんか言えよーって念じるんだけど俺の耳にはなんにも届いてこない。電話をかけてきたほうから話題を振るのが礼儀みたいな顔をしているカイザーを思い浮かべて、俺は降参した。正直に言う。
「……あのさー、藤原の、っていうか、藤原と吹雪さんのことなんだけど……」
その一言でいったいどれだけのことを理解したんだろう。カイザーは「ああ」って頷いたんだか唸ったんだか嘆息したんだかよくわかんないけど、とりあえずめちゃくちゃ頭痛そうな感じに呟いて言った。
「あの二人については、あまり深く考えるな。悩むだけ馬鹿を見るし、そもそもお前が頭を悩ませるようなことじゃない」
ってことはカイザーも悩むだけ悩んでバカを見たのか……って考えると妙な同族意識っていうか親近感みたいなのが湧いてきて変な気分だ。よく考えるまでもなく、俺よりよほど長い時間をあの二人と過ごしているカイザーはたぶんいろいろ知ってるんだろうし、ひょっとしたら藤原のあの人形みたいな顔とか無言電話とかもとっくに経験済みかもしれないのだ。もっと酷い目にあってる可能性だってある。その酷い目っていうのがどんな目なのかはあんまり考えたくないけど、高校生活三年間も仲良くしてりゃいろいろあるはずだ。きっと。それでそのぶん、それ以上に、楽しい思い出もいっぱいあるんだろう。藤原が話してくれたみたいに。
悩むだけバカを見るっていうのはたぶん本当にその通りで、もう実際に俺は散々痛い目をみているので、いやまぁほとんど自業自得なんだけど、とにかくこれ以上自分から地雷を踏みにいくような真似をしたくはない。大先輩のありがたい助言に、でも俺はやっぱりなにか喉の奥とか心臓の裏とかそのへんにごろごろしたものが突っかかってる感じがしてそれが剥がれなくて、あまり深く考えない、っていう普段なら得意中の得意のはずのことがちょっと出来そうになかった。電話口であーだのうーだの言ってる俺に、カイザーはあっさりと「ナメクジにでも噛まれたとでも思って忘れろ」とか言ってくる。ん?
「ナメクジに歯とかあんの?」
いや揚げ足とるようなこと言って悪いけど、ナメクジは噛まないだろ……ナメクジだし……って思った俺に、でもカイザーは別になにか取りつくろうようなようすもなく当たり前に「あるぞ」と言った。えええ、歯あるんだ! ナメクジなのに!
なんでもナメクジとかの軟体動物は歯舌っていう大量のトゲトゲを口の中に隠し持ってて、ふだんはそれで葉っぱとか削って栄養にするんだけど、種類によってはミミズとかへたするとネズミとか食べちゃうこともあるらしい。うわっ、なんだそれすげー。
なんでそんなこと知ってるんだろう。そういう知識ってどこで仕入れてくるんだろう? べつに特別ナメクジに興味があるってわけでもないだろうし、適当にテレビ見てたら科学情報番組とかでやってたんだろうか? でもそんなのいちいち覚えてないしこんなふうに喋ってて歯舌とかいう単語ふつうは出てこない。それともカイザーだしむつかしい本読んで勉強してんの? ナメクジの生態について研究された本? 図書館とかで?
「なーその歯舌? とか、そういうのって誰に教わんの?」
「中学のときに授業で習わなかったか?」
あれ、そうだっけ?
よく覚えてないけどとにかくカイザーはべつにすごい知識を見せたような感じはまったくなくて、俺は一人ですげーすげーって言いながら、あの二人のことナメクジに喩えたカイザーのセンスにちょっと笑いが止まらない。友だちに向かってナメクジとか言うか普通? でもなんか納得できないでもないかなーみたいな感じもあってそれが面白くて俺がけらけら笑ってると、カイザーもなんかちょっとおかしそうな感じになるのになぜか普通に声出すんじゃなくて「フ……」みたいな笑い方で俺はもっと笑ってしまう。
カイザーはカイザーって呼ばれるくらいだからそりゃもうめちゃくちゃすごいんだけど、なにがどうすごいかっていうと意外と話してみないとわかんないんじゃないかなーとか俺はたまに思う。ナメクジの話からカタツムリの話になって、そっから梅雨とか天侯とか話になって、俺のくだらない思いつきの質問にも付き合ってくれるカイザーはまさに人間ウィキペディア! みたいな感じの回答率で、つまり、なんかすごいのだった。こういうのってたぶん見た目だけじゃ感じきれないはずだ。
そのすっごいカイザーはひょっとしたら「明日の数学の補習って何時から?」とか聞けばさらっと答えてくれるのかもしれないんだけど、でもそこから勉強の話になってもつまんないから俺は敢えてやめといて、適当にけらけら笑いながらへーとかそーなんだとかすげーとか言って布団のうえをごろごろして、そうやってすごしているうちに、藤原の「できる、よ」ってあっけない声だとか吹雪さんの気配とかそういう喉元に詰まってたものをきれいさっぱり忘れることに成功する。
で、ハッと気付くと朝になっている。
布団の上で変な姿勢で転がったままの俺はケータイ握りしめた状態で目を覚まして、なぜか開けっぱなしにしてた薄いカーテンの真ん中から勝ち誇ったように輝く太陽の攻撃をまともに受けて呻いた。うおお……まぶしい……。
なんだ、あれ、いま何時? とかちょっと混乱しながら時計を見るとまだ昼は回ってないけどそれなりに良い時間で、やべー遅刻……って一瞬考えるけど今は夏休みで今日は補習のない日だ。セーフセーフ。ラッキー。
寝てたっていうよりは気絶してたみたいな感覚から上手に抜け出せないままで、ダルいまぶたを開けたり閉じたりしながらぼけーっと天井を眺めて五分くらいすごしてから、俺は起きあがってケータイの発信履歴にカイザーと藤原の名前が並んで表示されているのを確認する。うーん、変な夜だった……。でもなんか胸のあたりでモゾモゾグググってなってたものは消えちゃってもうスッキリだし、そもそも藤原がちょっと変なのは最初からわかってたことで、まぁさすがにビックリしたけど、でもあいつが吹雪さんのそばにいるっていうのはまぁ本来良いことのはずなのだ。夜中に出歩いて後輩に意味不明な無言電話かけてくるよりはよっぽどマトモに違いない。実際、夏休みに入ってから例の電話は一回きたっきりでずっとストップしているのだ。うんうん、これは喜ばしい。実にありがたい。
とかいって自分を納得させながら俺は昨夜の出来ごとを反芻しつつ、なにをどうひっくり返してもカイザーにおやすみとか言って通話を切った記憶が見当たらないことに気付く。横になって喋ってたらいつの間にかムニャムニャ寝ちゃってたに違いない。
あっちゃー。ごめーんカイザー。
一応メールでも入れて謝っといたほうが良いのかな? でもメールってやっぱ苦手で面倒くさくて、寝起きですぐに電話する気分にもなれなかったから俺は起きあがって制服に着替えて学校に行くことにする。総務管理会が今日活動しているかどうかは知らないけど、とりあえず学校行けば誰か会えるんじゃね? みたいないい加減な考えでぶらぶらと外へ出ると、八月の容赦ない日光がぶわっといっぺんに全身に覆いかぶさってきて早くも後悔しかけるけどまぁ、いいや。
あーでも、学校行って藤原いたらなんて言えばいいんだろ。昨日は突然切ってごめんなーって笑って謝れば、なんかどうにかなるかな。っていうか、どうにかするしかない。あーあ。
純愛モラトリアム - 4/7
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